不快感で満ち溢れている

フィクションかもしれません

『さるかに合戦』

お世辞にもうまそうとは思えない泥だらけのおむすびを、そっと腕に抱える蟹の姿に、ぼくは思わず目を背けた。日光が反射し杏色になった甲羅と、今にも折れそうな細い腕をこのまま見つめたらおかしくなってしまう。仕方なくおむすびに目をやるものの、子供と食べるの、と普段より高い蟹の声に、ぼくの胸はきつくなった。「この種と交換だ。」この居心地の悪さから抜け出したくて強引におむすびを取り上げた。悪くないね、と微笑む蟹を、ぼくはもう、昔みたいに見ることが出来なかった。それから蟹はぼくの渡した柿の種を大事に育てた。皆がぼくを嫌っても警戒することなく迎え入れてくれる、蟹の優しさが好きだった。しかし同時に、誰にでもその優しさを与えることに腹立たしく思ったんだ。蟹が丁寧に育てた、真っ赤に熟れた柿まで憎たらしかった。この苦しさに気づいて欲しくて、木の上からまだ青い柿を力いっぱい投げ捨てた。興奮で滲んだ目を拭い見えたものは、もげて遠くへ飛ばされた蟹の腕だった。