不快感で満ち溢れている

フィクションかもしれません

梅雨の23時はやみつきだよ

梅雨の23時はやみつきになりそう。日中降りしきった雨のせいで、いつものクソつまんない光景も、やけにドキドキしちゃうんだ。誰もいない路地で光る赤と青と黄色、濡れた路面に反射して隣のアパートの窓も三色に染まる。あの部屋の住人よ、公共が作り出すこんなにも妖しい夜を、どうぞ贅沢に使ってください。歩道に生まれた無数の水溜りは、底が見えぬほど漆黒で、足を入れたらそのまま呑まれて帰れなくなりそう。蒸されたコンクリートの臭いに吐き気がする。こんなときほど、あの人の着ていたシャツの香りで鼻をいっぱいにしたい。甘ったるくて、でも鼻を刺すようなきつさはなくて。あの人の近くを通るとき、いつも音を立てないように静かに、ゆっくり、大きく空気を吸い込んでいたかいがあったから、あの匂いを何度も再現することが可能なのだよ、わたしは。汗ばむ首の皮膚は、湿ったコットンを掻きむしったときみたいにか弱くなっている。あの匂いを必然的に思い出せるように、あえて窓は全開に、風呂上がりにワインを流し込む。隣にだれか居てくれるのが今晩の正解でしょうけど、わたしはひとり、鼻の記憶を頼りに留めておいた幸せを噛みしめるだけで十分よ。三杯飲んだところで体が床に溶けていく。いや、やっぱり、あの人が隣にいて欲しいな。