不快感で満ち溢れている

フィクションかもしれません

家を磨く

今日も丸一日お家にいました。蝉の騒がしさで目が覚め、昼食はロールパン4口程。テレビを点けると再来年のこの国について、安っぽいスーツを着たおじさんおばさんが、薄っぺらい言葉をズラズラと勝手に喋っておりました。真剣な面持ちで意見を述べたかと思えば、次の瞬間には犬猫の動画を見て笑い声が溢れかえる。一分もしない間にコロコロと空気が変わっていく頭の悪さに、私はブツンと電源を叩きました。洗面所に行くと湿った洗濯物が積まれています。きっと母が急いで回したものです。濡れた衣服から漂うのは鼻を刺すようなキツい水っけでした。これまでなら「なんで私ばかり」と愚痴を吐き捨て、嫌に足音を大きく立て、ベランダに持って行きますが、今の私は違います。「仕方ない」とも思いません。これが今の私の仕事なのです。強すぎる日差しに嫌な顔ひとつ向けません。私の仕事はこの家を綺麗にするだけです。昨日も同じことをしたのに、床には大量の髪の毛が落ちています。私はそれを「なぜだ」と感じることはありません。一本も残さぬよう、角の角まで丁寧に吸い取りました。ついでに汚れてきた机や壁も、重曹水を使い、念入りに拭き上げました。くたびれた家族が帰ってきても、今朝より美しくなった家に気付く者はおりません。それでも私は、毎日、この家を磨いています。ちょっとでも綺麗にすれば、少しずつ良いことが起きるかもしれない。そんな根もない呪いに期待を寄せています。毎日、丹念にこの家と向き合えば、同じくらい私を受け入れてくれるものが現れるかもしれない。空っぽでおぞましい希望かもしれません。もしかしたら、誰も、何も私に気づかないかもしれない。恐ろしい気持ちもございます。それでも私は、このくすんだ家から抜け出すいつかを求めて、今はただ磨くのです。